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ベートーヴェン作曲 ピアノソナタ「月光」の弾き方

ベートーヴェン ピアノソナタ14番「月光」の弾き方

〇ベートーヴェンについて 前回からの続き

前回まで、ベートーヴェンの幼少期から32歳で「ハイリゲンシュタットの遺書」を書き自殺を考えるほどの絶望から再び作曲家として立ち上がるまでを見ていきました。
今回はその後のベートーヴェンがどのように生きたのかを見ていきます。
ハイリゲンシュタットの遺書のあと、1803年から1804年(33歳から34歳のとき)にかけて交響曲第3番「英雄」を作曲し、
その後10年にわたり中期の傑作とされる作品を多く書いていきます。交響曲第5番「運命」、交響曲第6番「田園」、
彼の作品の中で唯一のオペラ「フィデリオ」などがその時期に書かれました。この頃にはピアニストの道は完全に諦め作曲家として生きていくことを決意します。
1815年、ベートーヴェンが45歳のとき弟のカールが結核で他界します。
彼の遺書の中に、「不誠実な妻にではなく、兄のベートーヴェンに一人息子のカール(父親と同じ名前)を託す」と書いてあったため、
ベートーヴェンは弟の息子カールの親権を得るために、弟の妻と裁判で争うこととなりました。
結局、親権はベートーヴェンに与えられ、後見人となりカールを育てるのですが、
ベートーヴェンはカールの教育にとても力をいれ、過剰な愛情と期待をかけます。
カールの教育に力を入れていた4~5年は作曲もほとんどしていなっかたようです。
もともとは繊細で礼儀正しい少年だったカールは、父親の死、母親と叔父の争い、
そしてベートーヴェンの愛情と期待が重荷となり耐えきれずに、非行に走り、20歳のときピストル自殺を図ります。
このことはベートーヴェンに多大なショックを与えました。
晩年は体調不良に悩まされ、彼の患っていた様々な病状が合わさり、結局は肝硬変のため1827年に生涯を終えます。
葬儀には2万人が参列したとされています。
ベートーヴェンは一生涯独身でしたが、数多くの恋愛を経験しその恋人たちのために曲を書いています。
顔立ちや性格はあまりよくないとされているベートーヴェンですが、貴族の女性に大変モテていました。
前回紹介した「エリーゼのために」、今回紹介するピアノソナタ「月光」も想い人に捧げた曲でした。
そんなベートーヴェンの手紙の中で「不滅の恋人」という表記があります。
この不滅の恋人とは誰なのかということがこれまで世界中で議論されていましたが、恐らくアントーニエ・ブレンターノという女性ではないかという結論に至りました(諸説あり)。この女性は1810年にベートーヴェンと出会い、その時すでに人妻でした。
大富豪と結婚していた彼女は、賢く優しい女性でしたが、様々な重荷から心身症となってしまいます。
それを懸命に慰めていたのがベートーヴェンでした。アントーニエは夫と離婚してベートーヴェンと一緒になる道を選ぼうとしますが、寸前のところでその話もなくなってしまい、結局二人は結ばれませんでした。また、ベートーヴェンと言えばお金に意地汚かったとされています。
これは前回も書いたように、17歳でアルコール中毒の父親と幼い兄弟二人を養うためにとても苦労したことが始まりではないかと考えられています。
しかし、作曲家として大成し多くのお金を稼ぐようになってからも、お金に執着していました。
浪費癖はなく慈善演奏も多く行っていた彼がいつまでもお金に執着したのは、昔の恋人ヨゼフィーネが2回目の結婚に失敗し、
金銭的に困窮していたため、彼女に送金し続けて支えていたからだとも考えられます。お金に意地汚いとされるベートーヴェンですが、
自分のためでなく彼女のために稼ごうとしていたようです。
死後は、自分の遺産を全額、弟の息子で自分が後見人となったカールに譲っています。
今のお金で考えると1億近くはあったのではないかと思われます。浪費をせずコツコツと貯めたお金でした。
変人でとっつきにくく、がめついという印象のベートーヴェンですが、本当の彼は人のために尽くすことのできる人物だったのではないかと思います。
10代のころから父親と弟たちを支え、昔の恋人のためにお金を必死に稼ぎ、自分の生活は倹約を重ね死後に甥に多額の財産を残す。
彼の言動には多くの問題点がありますが、人との距離の取り方があまりわからなかっただけで、人を想う気持ちは誰よりもあったのではないでしょうか。
そんな彼だから、死後に2万人もの人々が彼の死を悼んだのではないでしょうか。今、音楽室のベートーヴェンの肖像画はみなさんにはどのように見えますか?

ピアノソナタ14番「月光」について

この曲もまた女性に捧げられた曲でありました。ジュリエッタ・グイッチャルディという女性で、
1801年、ベートーヴェンが31歳のときに彼からピアノの指導を受けることとなりました。その時彼女は14歳。
ベートーヴェンはすぐに彼女のことを好きになります。しかし、この曲は彼女のことを想いながら書いた曲ではありませんでした。
本来、彼女に献呈しようと思っていた曲を別の人に献呈することとなったので急遽この曲を彼女へ捧げたようです。
女性からするとちょっと複雑な気持ちになりますね。結局、彼女もまた別の人と結婚し、ベートーヴェンはふられてしまいます。
また、「月光」として知られるこの曲ですが、「月光」という副題はベートーヴェンが名付けたものではありません。
ベートーヴェンの死後、レルシュタープという人が1楽章を聴いて、スイスのフィアヴァルトシュテッターという湖にうつる月の光をイメージしたことから「月光」と名付けられました。聴く人によってイメージは異なりますが、この曲を聴いてみなさんは何をイメージするでしょうか。

演奏について

ベートーヴェンのピアノソナタは、楽譜をよく見ると弦楽四重奏を意識しているような書き方が多々あります(この曲では特に2楽章。)
ピアノ曲だけでなく、ベートーヴェンの弦楽四重奏、交響曲なども聴いてみると、ピアノを演奏する上で様々な音色を出すヒントがあるでしょう。
たくさん聴いてみてください。
第1楽章は嬰ハ短調で始まります。右手の3連符は、波のない静かな水面を想像しながら決して急がず転がったりせず、一定に弾いてください。
左手の下降音型は深いところまできちんと打鍵しながら意志を持って進んでいってください。
和声の変化も耳でよく聴きながら、音としても表現してください。
5小節目で右手にメロディーが出てきてからは、そのメロディーが浮き立つように、内声とは違う深い打鍵でよく聴かせてください
。内声は決して大きくならないようにバランスをよく聴いてください。フレーズの中での強弱もよく確認して聴きながら表現してください。
28小節目からのソプラノと内声で交互にメロディーが出てくるところは、会話をしているように弾いてみましょう。
32小節目からは1つのフレーズごとに少しずつ気持ちを盛り上げていき、35小節目からはそのまま盛り上げて弾いても良いですし、
突然PPにしてみて上行と下降をよく聴かせるように弾くこともできます。
この曲の終わりは、深い湖の底に沈んでいくように、どんどん静かにかすかになっていきながらも軽い打鍵になってしまわないようにしましょう。
様々な情景を想像しながら弾くことのできる曲ですので、自分がどのようなイメージを持っているか、それにふさわしい音色で弾くことができているか、
よく聴いて音色や構成を研究してみてください。
第2楽章は、深刻な雰囲気の1楽章と3楽章の間で、とてもかわらしく楽しげな雰囲気の曲となっています。
リストはこの楽章を「2つの深淵の間に咲いた愛らしい一輪の花」と表現しています。この曲はアウフタクトで始まります。
フレーズ感は大切にしながら拍の頭がどこにあるのか、忘れないようにしましょう。
1~7小節目まで、スラーがある部分とスタッカートになっている部分が交互にでてきますので、その違いを表現しましょう。
16小節目の最後の音からスラーの部分が続きますので、今までより柔らかい雰囲気で進めていきましょう。
37小節からのTrioはフレーズを大きくとり、より雄大な雰囲気を出しましょう。そのフレーズの中でも会話をしているように、表現をかえてみましょう。
また、この曲はリピートが多いので1回目と2回目でタッチの仕方などをかえて、強弱や音色を変化させてみるのも面白いですね。
第3楽章は、最初から激しい曲ですが勢いだけに任せて弾くのではなく、左手のスタッカートの分散和音の音型で拍を感じながら、
右手をそれにのせて弾くようにしましょう。またスフォルツァンドは鍵盤を力任せに上から叩かないようにしましょう。
ここを力任せに上から叩くと、顔をはたかれているように聞こえてしまいます。9小節目からもきちんと拍の頭を感じながら急がず弾きましょう。
21小節目からはメロディーをたっぷりうたいます。ここの左手は速くなってしまいやすいので、気を付けてください。
43小節目からはそこまでパッセージが続いてきたところから一転して、スタッカートの重音で進んでいきます。
ここは音型が内側に閉じてきて、また外側に広がってというものになっていますので、その開閉をよく感じながら弾いてください。
163小節目からは、一気に164小節目のソプラノの音までなだれ込み、165小節目から166小節目も同じようになだれ込みます。
最後の音にもしっかり体重をのせて響かせてください。167小節からは左手にメロディーが出てきます。
十分にメロディーをうたって171小節からの右手のメロディーに繋げてください。
177小節目からの3連符での下降と16分音符での上行の繰り返しは音の高低差を楽しみながらたっぷり弾いてください。
190小節目からはPで始めて、次第にクレッシェンドしていき最後までしっかりとした打鍵で弾ききってください。

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